どうして登るのか・・・・それは登った人にしかわからない世界がそこにはあるから。
さすが世界の屋根ヒマラヤ。アンナプルナはいい眺めだ。
カトマンズからの眺めもいいが、ここポカラの方がのんびりしていい感じ。
特にマチャプチャレは鋭利な尖端が美しい山。
アンナプルナは標高8091m。富士山を二つ重ねた山よりも高い。
朝は宿の屋上で焼きたてのパンとチャイが日課になっていた。

(少し肌寒かったりするが、山を眺めながらの朝食は気持ちいい。)
2週間ぐらいたった頃、パン屋のオヤジに言われた。

" もう登った? "

" 登ってないよ。"

" 旅行者なのに、どうして登らない? "

" どうして、登らないといけないの? "

" お前は毎日毎日ネパールにパンを食べに来たのか? "

" いやいや・・・・そう言われても・・・・ "
インドからネパールに入るといつもこうなる。ポカラではついつい沈没してしまう。
メシが美味しいだけじゃなくて、ネパール人が相手だと何をするにも楽だから・・・・ただただ脱力。
インドの喧騒で少し歪んでしまった精神的なバランスをここで修正する。

" 登っておいたほうがいいよ "

" どうして??? "
オヤジは山を指差して真顔で ・・・・

" あそこにはシバ神が棲んでいる。"
そう言われると、近くで見てみたくなるもの。
山の上で

WELCOME TO MY HOME

な〜んて垂れ幕がパタパタしてたりして・・・・と
バカな妄想が膨らんで、無性に登りたくなってきた。いつもの行き当たりばったり症候群の血が騒ぐ。
バックパックにはトレッキングができるぐらいの装備はいつも携帯している。
えぇ〜ほんとに荷物これだけなの???ってのが御自慢の身軽なサドゥー系バックパッカーではないから
荷物は軽くないが、こういう時は気持ち次第ですぐに次の行動に移せるってのは便利。
朝食を食べ終わる頃には登る意思は固まっていた。

(マチャプチャレのピークって、この尖った先に登るんだよな・・・・。)
頂上まで登るわけでもないのに、どうも入山許可証がいるらしい。
今まで山なんて一度も登ったことがないから、そういうシステムがあることすら知らなかった。
許可証を取りに行くと、ガイドがゾンビのように俺を雇ぇ〜とやって来る。
ネパール人なのに・・・・ありゃインド人???ってぐらいまとわりつく。

" お前ら、うるさい! 一人で登れるわ!! " ・・・・と蹴散らす。
山の民が行き来して路ができているので、迷うことはない・・・・だろう。
トレッキングの途中、何人かの登山者とすれ違う。みんな山小屋に泊まるようだ。
テント持参で登ってる奴なんていやしない。
しかもガイドやポーターを何人もつけて・・・・こりゃ大名行列だ。
どうりで、雇え雇えと付きまとってきたわけだ。
テントを張っていると、山小屋のオヤジが下から何か言っている。
耳を澄ますと " 虎がでるから気をつけろ!! " と叫んでいる。
虎って・・・・こんなところにベンガルトラなんて、でるかよ・・・・という思いと
気にしてるのは虎より山賊なんだけど・・・・という思いが入り混じる。
だいたい、どうやって気をつけるんだよ。
こういう時は半分感謝して半分疑うことにしている。
オヤジの忠告はテントじゃなくて、うちに泊まってくれよ〜・・・・というお願いだと判断した。
いい人を装う必要はないが、相手に悪い印象を与えるとマイナスは多い。
だから手を振って、朝飯は食べに行くよ〜! と身振り手振りでこたえておいた。
一人のキャンプでは野生の熊も野生の虎も怖いが、人間が一番怖かったりすることがある。
このオヤジが実は山賊だった・・・・なんてオチも十分ありうる。

(突風は気がかりではあるが、上を見ても下を見ても眺めはなかなかいい。)
日が暮れ月が山に隠れると、ほんとに真っ暗。闇と対面すると、いつもぷるっとくる。
光のない世界では音を聞き分けようと耳が集中しているのがよくわかる。
テントの前室から顔だけ出して空を見上げる。
星に願いを♪ 枕元に忍ばせたナイフを使うことなく、無事に朝を迎えられますように・・・・。
しかし・・・・これはすげぇ〜星だ。
映画 2001年宇宙の旅 でのボーマン船長のセリフが脳裏に浮かんだ。
" MY GOD, IT'S FULL OF STARTS . "(すごい 降るような星だ。)
また一ついい世界を見せてもらった・・・・感謝